ロルフィングの10シリーズを始めるクライアントの方々が、なんだか競技レベルでスポーツをされてるバックグラウンドをお持ちのことが多く、セッション内容にも興味深い変化が訪れています。
そうした方から競技特性に応じたセッションができるか、という質問があっても、現時点ではYesともNoともいえないな、というのが率直な感想です。実際のところ、クライアントの方が要望する箇所へのワーク内容にはなるかもしれないし、ならないかも知れないです。
ロルファーとしての私のやり方は、体のどこかに問題を抱えている方に対して、体全体のなかでその箇所と他の部分とのつながりの良し悪しを見てワークをすることです。 局所的なケアや医学的な処置は私より卓越したかたが地域にたくさんいるはずで、私の出る幕じゃないとおもうんですよね。それにランニングに例をとれば、走ると前すねが張ってしまってつらく、ブレーキがかかってしまうという方がいた場合、一般的なケアとしては脛の筋肉そのものを揉んだりするのかもしれません。受ける側も、痛む場所に問題があるものだと考えるのが順当でしょうね。
しかし、より全体的(ホリスティック)なワークをしているロルフィングの立場からみたら、原因は痛む箇所のほかにあるという可能性を探します。あるクライアントさんの場合、ランニング中の姿勢を維持するために意識する重心をおく場所を提案したり、もっと具体的には、足の親指からの推進力と体幹のバランスをコーディネートしたりした結果、すねの張りがなくなった、ということがありました。(個人の体の使い方はあらゆる人が固有のパターンを持っており、この内容は誰にでも通用するものではありません。)
また、ロルフィングは安全な施術だと思います。「揉みかえし」の炎症が起きるような強度なものや筋膜を「はがす」激痛を伴うものではありません。 競技パフォーマンスへの影響としては、仮に体全体の組織のつながり・バランスを無視して局所的に緩めすぎるようなことをすれば、悪い結果も起こりうると考えています。しかし、そのようなロルフィングの趣旨から外れるようなワークはしていません。
自分がロルフィングを初めて受けていたとき、体全体がすごく楽になっていく一方で、一つの疑問がありました。それは「組織や靭帯を緩めるばかりでは、収縮する筋能力や衝撃に対する抵抗力が低下するのではないか?結果としてパフォーマンスが低下するんじゃないか?」というものでしたが、結果として全て杞憂に終わりました。
様々な、不要な力みのパターンを捨てることができ、鎧のような筋肉のラインはロルフィング後にもゆっくりと消えていきました。内側で深層筋が活性化して細かい身体操作が安定し、常にリラックスした動きが生み出せるようになったと感じました。ストレッチをすると刺すような痛みが生じていた箇所がいつの間にかなくなり、ヨガもダンスも、前とは比較にならないほど自由に行えるようになったことを記憶しています。
これらは私の個人的な経験に過ぎないのですが、私個人の疑問は解けました。体の組織が均一な柔軟性と弛みを持つことで、体全身で衝撃を吸収できるようになったからです。コンテンポラリーの地面に近い動きやコンタクトインプロのように落下を伴う動きでの怪我がなくなり、人に衝突・接触することが怖くなくなったことは実感としてありますね。 また、リラックスした状態がつくりやすいので、慢性的な疲労を減らし、瞬発力を向上させることができたのも、ロルフィングと、ロルフムーブメントを通じた体の気付きが向上したから、だともおもえます。(写真はJohan Elbertによるコンタクトインプロの撮影 1980年)

ただ、最大筋力にだけ限って言えば、やや低下したのかもしれません。普段の生活や仕事のなかでムダに総動員して使っていた筋肉の多くは休めるようにしてしまったし、何よりは筋トレがとても嫌いになってしまったためです。マシントレーニングやウェイトトレーニングを行って、局所的に筋を鍛えることがあまり気持ちよく感じられなくなってしまったからかもしれませんね。もっとも、必要性があればやるべきだとは思いますが、今のところそれらを通じた筋力アップを必要とする運動に私自身が熱心でないだけで、効果を否定するつもりは全くありませんよ。
アスリートのかたはご自身の競技・身体能力やトレーニングの仕方に関しては私なんかよりははるかに専門的ですから、ロルフィングを通じてご自身の身体パフォーマンスにつながる変化が生じているか、専門性とつなげて考えて、いいように解釈してもらえればいいなあ、とおもってワークしています。
どのみち、ご本人の意思や感情が肯定する変化しか、体には定着しないものだと思います。ご自身の興味に近いものは具体的にイメージしやすいし、受け入れやすいというのは自然なことだと思います。その意味で、ロルフィングのセッションが競技特性に対応したものなるかどうかは、クライアントさんのモチベーションの持ち方・興味の持ち方に拠ってはYes、なのです。
またNoになる理由としては、「アスリート向けのセッション」といったフレーム作りを私がまだしていないから。まあ、予定は未定(笑)です。ロルフィングを通じて日常生活のQOLが向上することで、競技能力をおおいに下支えすることができると思います。